エッセイ6「場所ということ」16
差しやねとは、茅を解体せずに、古い茅を引っ張り、新しい茅を差し込み、屋根の厚みを葺き替え時に近い状態まで回復してやる工法である。
差し屋根、あるいは差し茅と呼ばれるこの工法は、全国的に広く流通する修復方法であり、方法は地域色、地方色が見られるものの、屋根の厚みを戻す、
という考え方では基本的に一致している。
差し屋根は応用力のいる工法である。
以前にあげた「しなって収まる」という茅葺きの葺き替えにおける基本は、差し屋根においても適用される。
だがしかし、差し屋根においては、「しなりが見えない」のである。
葺き替え時には、茅を葺き重ねていくので、竹で止めたときにいかに茅がしなるか目で見て確認できるし、ひとつの段のしなりから、次の段の中の茅の
並べる順序を、長い茅、短い茅の中から、どのような長さと種類で組み合わせていくのか、決定していくヒントにもなる。
しかし、差し屋根においては、それが見えない。
古い茅をひっぱり、腕を肘より奥までぐっと屋根にいれて探ることによって、押さえた竹までの距離、竹から奥の状況、茅の勾配から、茅がどのように
しなっているのか想像しなくてはならないのだ。
「葺き屋根が分かっていないと、差し屋根は分からないよ」(山田親方)の通り、想像する屋根、イメージする屋根が差し屋根である。
古い茅を引っ張る程、下地に撫で付けられ収まっていた茅は、水平に寝ることになり、しなりがなくなっていく。
そのために一段ごとの状況に応じて、「まくら」と呼ばれる茅を竹の奥に入れてやらなくてはならない。
「まくら」の入れる量、位置、長さが勘を要するところで、しならせるためにどの程度の「まくら」を入れたら良いのか、とても難しい。