山城萱葺の原点は、宇治川・淀川のヨシ原にあります。
私はヨシ屋の4代目として生まれ、29歳の時に茅葺き職人になることを決意しました。
茅葺きには、資源を一切無駄にしないという特徴があります。茅として使われるヨシやススキは、育つ過程でCO2を吸収し、葺き替えで役目を終えた古い茅は、田畑の肥料として土に還ります人と自然との共生の中で、茅葺きをめぐる循環が成り立っているのです。現在の日本では、茅葺き屋根の新築は建築基準法により規制されています。「先祖から受け継いだものを、自分の代でなくすわけにはいかない」という人々の思いが、茅葺きの消滅をかろうじて食い止めているのが現状です。
未来のために、この茅葺きという文化を絶やしてはならない。そんな思いで事業を続けてきました。成り手がおらず、減少の一途を辿っていた茅葺き職人でしたが、ある時から各地で同世代の職人が増え始め、茅葺き復興の動きが起こりました。自社だけでなく、茅葺き全体を守るために、私たちに何ができるのかを考えていきたいと思います。
代表 山田 雅史
未来のために、この茅葺きという文化を絶やしてはならない。そんな思いで事業を続けてきました。成り手がおらず、減少の一途を辿っていた茅葺き職人でしたが、ある時から各地で同世代の職人が増え始め、茅葺き復興の動きが起こりました。自社だけでなく、茅葺き全体を守るために、私たちに何ができるのかを考えていきたいと思います。
代表 山田 雅史
「葺」という漢字
「葺」という漢字は、「草」「口」「耳」が合わさってできています。
茅葺きに限らず、瓦や鋼板など全ての屋根に使われる「葺く」という言葉。言葉が生まれた頃から、人々が集まって草で屋根をつくってきたことがわかります。
2004年の創業以来、全国からお声がけいただき、重要文化財の葺き替えにも数多く携わってきました。
美しく耐久性の高い屋根を葺けるよう、日々技術を磨いています。
重要文化財
19件
民家
30件
寺院・神社
34件
葺き替えをご依頼いただいたお客様に、お話を伺いました。
断熱性・通気性が高く、涼しい。
音を吸収するので、静か。
遮熱・断熱に優れ、湿気を調整してくれる茅葺きの家は、夏でもとても涼しいです。茅が音を吸収するので、家の中は雨音に気づかないほど静けさが保たれます。冬は寒いですが、囲炉裏(いろり)やかまどで火を焚いて部屋を暖めることができます。立ち昇る煙が茅の防虫・防水に役立ち、屋根を長持ちさせる効果もあります。
茅のしなりを活かし、
美しく丈夫な屋根を作る。
茅葺き屋根はしたたかです。揺れることで風や地震の力を逃がし、雨は、隙間をふさがずとも表層をつたって流れていきます。一本一本は細く、手で簡単に折れてしまう茅。長さや形状によってどの茅をどこに使うかを考えながら、竹ではさんで固定します。素材自体のしなりを活かし、きれいに目の詰まった丈夫な屋根を作ります。
ユネスコ無形文化遺産に
登録された伝統技術。
2020年、「茅葺」と「茅採取」を含む伝統建築の技術がユネスコ無形文化遺産に登録されました。茅葺きは、権力者がつくった文化遺産ではなく、民衆の暮らしの中で受け継がれてきた文化です。葺き替えながら維持するため、屋根そのものが何百年も残ることはありません。自然と人との共生を可能にするシステムとして茅葺きの価値が認められ、たいへん嬉しく思います。
水と空気を浄化し、やがて土に還る。
茅の一種であり1年で3mほどに成長するヨシは、二酸化炭素の吸収量が多く、川や湖の水質浄化に役立ちます。しかし、育ったヨシを放っておくと、立ったまま枯れて薮になってしまいます。ヨシ原は、人が手を入れることで維持されてきました。一方、屋根としての役目を終えた古い茅は、田畑の肥料として土に還ります。茅葺き屋根は、人と自然との共生が織りなす一連の流れの中に存在しているのです。
茅葺きという選択肢が
当たり前に存在する社会へ。
施主さんにとっても、働く人にとっても、茅葺きという選択肢が当たり前に存在する社会を目指しています。ご先祖への礼儀としてではなく、未来に遺したい希望として、葺き替えをご依頼いただきたい。茅葺き職人を、誰もが目指せる職業にしたい。茅葺きを未来へつなぐため、会社として取り組むこと、業界全体として動くこと、どちらも大切に活動をしていきます。
茅葺き屋根は、雨風や紫外線を受けて老朽化していくので、数十年後に一度、葺き替えを行います。
大きな建物になると、5人がかりで進めても数ヶ月かかることもあります。
地域ごとに異なる屋根のかたちを変えてしまわないよう、周辺の茅葺き屋根を見てまわり、その土地の型を学びます。
先人の技術に触れられる貴重な機会。丁寧にめくりながら観察し、その屋根が葺かれた時の作業工程をなるべく再現します。
土地によって、丸い竹や割った竹、丸太など下地の材料はさまざま。これらを格子状に組み、縄で結んで固定します。
ちょうどいい角度と厚みで茅を葺いていくために、まず土台となる軒(のき)を作ります。屋根の全体像が決まる大切な工程です。
頂上までのラインを思い描きながら、角度をそろえて茅を差し込み、「たたき」という道具で叩いて茅の先を整えます。下から上へ、この作業を繰り返していきます。
杉皮や瓦などで屋根の一番高いところを作ります。地域ごとに個性があり、土を敷いて花や草を植える芝棟(しばむね)のような珍しい様式に出会うこともあります。
仕上げに、上から下へ、はさみなどで茅を切りそろえます。美しく刈り込まれた茅葺き屋根は、丈夫で、雨が内側に漏れません。
茅葺き屋根の完成です。熟練の職人になると、屋根を見れば誰がどこを葺いたかがだいたいわかります。
かつて山城萱葺で働いていた職人が、茅葺きの難しさとおもしろさ、現場での苦悩や発見をコラムとして綴ってくれました。なかなか言葉で語られることのない茅葺きの世界。ご興味のある方は、のぞいていただければと思います。