ずいぶん昔から、人の暮らしはヨシと共にありました。茅葺きだけでなく、簾(すだれ)やついたての材料としても使われるヨシ。1年で3mほどに成長するヨシは、生育の過程で水と空気を浄化し、役目を終えた後は土に還ります。全く無駄になることなく、人の生活とともに循環しているのです。
2015年に制定されたSDGsは今や世界の常識となり、自然との共生は、私たちにとって大きな課題だと言えます。はるか昔から続いてきたヨシをめぐる人の営みは、私たちにたくさんのことを教えてくれます。
2015年に制定されたSDGsは今や世界の常識となり、自然との共生は、私たちにとって大きな課題だと言えます。はるか昔から続いてきたヨシをめぐる人の営みは、私たちにたくさんのことを教えてくれます。
人の営みが
ヨシ原の生態を豊かに
手入れの行き届いたヨシ原では、ツバメやカヤネズミなどたくさんの生き物が暮らしています。しかし、立派に育ったヨシは、刈り取らずに放っておくと、やがて立ったまま枯れて薮になってしまいます。草原の生き物は薮には住めません。
茅の一種であるススキも同じです。里山のススキ野原は、人と動物の生活圏をわける境界線にもなっています。森林が発達しやすい日本では、ヨシ原やススキ野原のような草原は、人の手が入ることで維持されてきました。人が生活のために自然を活用することで、豊かな生態系を育んできたのです。
焼くことで
新たな命が芽吹く
ヨシ原を健康に保つために、3月頃にヨシ焼きを行い、春の発芽を促します。焼いても地面の下の地下茎は生きていて、4月頃には元気な新芽が出てきます。逆に、枯れ草をそのままにしておくと、日光が地面まで届かず、新しい芽が育ちません。
害虫駆除のために始まったヨシ焼き。ヨシ原の環境保全に必要な歴史ある営みですが、煙や灰の飛散が問題となり、年々実施が難しくなってきています。
水と空気を浄化し
やがて土に還る
川原や湖岸に生えるヨシは、成長するために、水質汚染の原因になる窒素やリンを養分として吸い上げます。さらに、光合成により二酸化炭素をたくさん吸収してくれます。多年草なので、刈り取りやヨシ焼きを行うことで、浄化作用が毎年続きます。屋根や簾として使われた後の茅くずは、良質な田畑の肥料として重宝されます。
かつて山城萱葺で働いていた職人が、茅葺きの難しさとおもしろさ、現場での苦悩や発見をコラムとして綴ってくれました。なかなか言葉で語られることのない茅葺きの世界。ご興味のある方は、のぞいていただければと思います。