エッセイ4 野生の「しなり」3
だがしかし、初めてのカドをつけたという経験によって、わたしは茅葺き屋根の根幹を知ることになった。
それは、茅の「しなり」と、それによって「おさえる」という力学である。
山田親方が伝えたかったもう一点なのであろう。
茅葺きを、もっとも茅葺きとして特徴づけるならば、この「しなり」という茅が生来持つ特性を生かし、まるで弓をひいたときの曲線を描いた形のまま、
茅が屋根の中で収まっているということである。
茅というしなる材料をある点で、上から強い力をかけると、茅の先端と、末端から下向きに働く力が生まれるのである。
そしてこの「ある点」が重要だ。
茅のどこに力をかけたらもっともしなり、もっとも下方向への力が働くのか、そこに経験と勘が必要になってくる。
この「ある点」に茅を押さえるための竹を据え、そこにハリで下地まで貫通させて、針金、縄などで結束する。
そして足で竹を踏むことで、「ある点」に強い力がかかり、それが一段全体のしなりを生み、茅の先端と末端に下方向への力が加わるのである。
このしなった状態を維持しながら、ひとはり、ふたはりと進んでいく。
当然しなった茅は、しならない茅に比べて抜けにくい。
そして、しなった茅は下方向に働くことで、しならない茅に比べて、一段の茅の目が美しく詰まる。