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エッセイ4 野生の「しなり」2

「図面」など書いたこともない。

まったく建築学的素養がないわたしは、とにかく親方に言われた通り、屋根を縦にきった断面図とを書くようにしてみた。

丁稚修行開始からつけていたメモの癖にくわえて、半年を過ぎる頃から、へたくそな図面を書く癖を心がけた。

とりあえず今日葺いた一段を復習して、同じように絵を描いてみる。

葺いた一段そのまま頭の中で描いて、それを紙の上に投影してみる。

そしてそれが正しいかどうか、次の日にまた確かめてみる。

すると、当初気づけなかったことに、だんだんと気づけるようになってゆく。

同じ視界に映っている茅葺き屋根であるはずなのに、図を書き始めてひと月、ふた月と経過するにつれ、同じ視界に映る屋根の中でも着目するところが変わってきたのだ。

 

そう。「図を書いてみな」という親方は大切なことを教えてくれた。

頭で描くイメージを、茅という材料を用いてどのように実際形作っていくのか。

空中で完成した茅葺き屋根の姿を描きながら、その姿に近づくように茅を葺いていく。

その作業に、絵を描く、図を書くという作業は有効であったことに気づいたのだ。

山田親方はただ「書いてみて」としか言わなかったが、きっとこれがどんなに有効なことが知っていたのであろう。

頭のイメージを明瞭にし、実際線を引いてみることで、茅を葺く前に、「頭の中のイメージ」という準備が出来上がってゆく。

そして、その頭の中のイメージが正しかったのか。

間違っていたか。

茅を葺いて親方から指導を受けることで訂正し、ふたたび頭の中のイメージを構築し直す。

茅葺きとは頭の中でイメージをいかに正確に描き、準備し、それを実際に茅という材料を使って投影していくかという作業に他ならないことに気づいていく。

時には、正確に描いたはずのイメージが、茅という物理性によって裏切られることもある。

想い通りに茅が収まってくれないこともある。

野生の茅を飼いならすのは難しい。

頭の中のイメージと、茅という現実の物理性の限界。

その弁証法が茅葺き屋根をつくっていく上で、根幹をなす作業なのだと気づかされた。

茅葺き屋根は、手で葺く前に、頭で葺かなくてはならないのである。

 

そして、頭で描くイメージが重要だと気づいてから数ヶ月がたったあと、「カドをやってみるか?」という親方の一言。

1年経ってからようやくやってきたカドのチャンスである。

いままで、ベテランの職人らが担当してきたカドに、ついに自分もそのスタートラインにたてたのだろうか。

とにかく大変な仕事だと、現場が始まる前からカドのイメージを図に書いてみる。

茅のイメージを頭で描いてみる。

できるだけの準備を行ったつもりだった。

だが、現実のカドはことごとく失敗の連続だった。下

地の勾配、カドのセンターライン、材料の選択、棟の狙い、一段のカドを形成する上で、いくつも同時に条件を満たさなくてはならず、その優先順位も自然と決まってくる。

はじめてのカドを触るものにとって、これら諸条件への適応力は全くない。

条件の優先順位もわからない。

ということは、自分のつけたカドがなにを基準にしてつくったのか、葺いたものから見えてこないのだ。

これは頭の中で描いた像とはことごとく異なるものであった。

結局はじめてのカドは、思い返せばカドの形をしただけで、そこに何も主張が見えていなかったと振り返る。

 

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かつて山城萱葺で働いていた職人が、茅葺きの難しさとおもしろさ、現場での苦悩や発見をコラムとして綴ってくれました。なかなか言葉で語られることのない茅葺きの世界。ご興味のある方は、のぞいていただければと思います。

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