エッセイ6「場所ということ」12
出張の仕事における最も重要なことは、ほかの業者と共に工事をする場合、親方に習った屋根の葺き方以外の方法論を学ぶことができるということである。
茅葺き屋根を作る方法は地方によってかなりの差がある。
農村を軸に、徒弟制度の中で技が継承されてきたために、屋根の葺き方、カドの付け方、茅の勾配、茅のしならせ方が、それぞれの地域で、
それぞれの流儀があり、またそれぞれの理論がある。
例えば、浜松では、同じ京都の美山茅葺と仕事をしたのだが、同じ京都府内でも、南部と北部では屋根の考え方が違う。
カドのつけ方には方法論が凝縮されているといってよい。
休憩時間に入る際に、中野誠氏や大崎氏のカドを見て観察する。
そして、神戸市北区では、同じ関西でも、入母屋の形状が神戸から北の丹波地方独特のものがあり、ケラバに蓑甲がつくが、それを神戸の親方塩沢実氏が
作ったものを見て観察する。
屋根が違えば、葺き方も方法論も違う。
どれが正しいというのでなく、むしろ「場所」を軸に展開してきた茅葺き屋根の工法の豊かさに出会うことになる。
ここでもまた仕事を盗むという姿勢が重要になってくる。
とくに重要な部位であるカドの付け方には、その地方の屋根の葺き方のエッセンスが詰まっているといえる。
神戸の現場の様に4業者も揃うことなどほとんどない。
このときは、関西だけでなく、飛騨における茅葺き屋根の考え方、北関東の茅葺き屋根の考え方にも触れることができ、それまでひとつしか知らなかった
屋根の葺き方が相対化され、なるほどこういうカドの付け方もあるのかと教わる。
技としての引き出しが増えるとともに、茅に対してのイメージがより深まるようになる。
こうした他業者との共同の仕事は実は最近になってからのことである。