エッセイ4 野生の「しなり」4
わたしは3尺と6尺の繰り返しがなぜ選択されているのか、修行を開始した当初わからなかった。
だが、この「しなり」と茅が生来もっている「野生の力学」を理解してから、目から鱗が何度も落ちる想いがした。
実は、6尺の長い茅がしなるように3尺の茅を合間に挟み込んでいたのだ。
これに気づいたのは、初めてカドを経験してからであった。
この「しなった茅がおさえる」という力学が、茅葺きの根幹そのものであり、茅が抜けずに何十年も鎮座するメカニズムであった。
そして、「しなる」がゆえに、ススキや、ヨシといったイネ科の植物が「茅」として選択されるのだ。
力を加えて割れたり折れたりするような草は茅として選ばれない。
茅葺屋根がなぜススキ、ヨシで葺かれているのか、「野生のしなり」とともに理解できるようになった。
しなる力学が、あのガチッと詰まって固い屋根を生むのだ。
わたしは茅葺き屋根とは、丁稚を始める以前、下地に茅を肉付けしただけのようにイメージしていたが、そうではなかった。
茅という植物と対話しながら、いかにしならせたまま屋根におさめるのか。
その問いに答えるために、茅の長さや種類をかえていた。
およそひとつとして同じものはない屋根の下地の勾配によって、材料の長さや種類をかえる。
そして、またひとつとして同じものはない周辺環境、つまり木々が周りに茂っているか、東西南北の方角どちらを向いているのか、日当りや目の近さを
考慮して材料の種類や長さをかえる。
こうしたことを理解し始めた2年目の初めから中頃に、わたしは茅葺き屋根のもつ奥深さにすっかり打ちのめされ、魅了され、また面白いと感じるようになってきた。
そして、この「しなり」の生むことの難しさを朧ろげながら理解し始めたとき、やっと屋根葺きのスタートラインにたった気がしたのだ。