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エッセイ2「仕事を盗む2」

茅葺きの仕事は大きく分けて、屋根の上の仕事と、屋根の下の仕事に分かれる。

私はもちろん屋根の下から仕事が始まる。

屋根の上では職人たちが、屋根の下地を縄で結い、茅を葺き、足場をつりながら葺き上がっていき、棟をのせ、ハサミできれいに仕上げていく。

一方、屋根の下ではその職人たちの一連の仕事を支えている。

茅を指定の長さに切り、それを屋根の上まで担ぎ上げ、空いた時間に茅クズを掃除し、現場の整理整頓に努める。

この屋根の下の作業員を関西では「テッタイ」と呼ばれている。

 

「職人を目指すなら、まずテッタイ業をしっかりこなさなくてはならない。」

 

親方から言われた最初の言葉である。

振り返るとテッタイには屋根の仕事の基礎が詰まっていた。

屋根の上の作業の流れを読み、一歩先を準備すること。

そのために材料をどのように置き、保管しておくのか。

さらに屋根の上の要求に応えるために、屋根の知識や、建築物の知識もある程度身につけなければならない。

テッタイをこなしていくなかで、まずは茅葺きの基礎的なルールや常識、そして仕事の流れを覚えてくのである。

 

2006年4月、私が最初にひとつの現場を着工から竣工まで通して仕事をしたのは、京都府城陽市の重要文化財「沢井家住宅」である。

関西でも珍しい茅葺きの曲がり屋は規模が大きく、京都美山のきたむら茅葺き屋根工事(現:美山茅葺株式会社)の職人たちも応援に参加していた。

そこには4年目だという若き職人大崎氏や、松木氏がいた。

職人としてのデビューが遅いと感じていた私は、年下の彼らがもう立派に仕事をしているのにあせり、悔しさを感じていた。

なんとかして、はやく追いつくことはできないだろうか。私はひとつの規則を自分に課した。

「失敗は一度まで」である。

いいかえれば「新しいことは一度で覚える」ということだ。

しかし、知識を頭に入れる訳ではない。一度で覚えるといっても身体技法に関することである。

実際は失敗の連続であった。

初期に覚えなくてはならない登竜門は、「男結び」と呼ばれるワラ縄を用いた下地の結束方法である。

やり方だけ学んだ後、帰宅後練習し、それを次の日に試してみる。

そして、先輩たちの縄掛けと自分のできたものを比べてみる。どこが足りないのか。

どこが甘いのか。見て、比べて、やってみて、まだ成功しない。

実際、一度で覚えることは不可能に近い。

 

大事なのは心掛けや、姿勢だ。

失敗しないと覚えられないが、何回も同じ失敗をするのは愚の骨頂である。

若き職人たちをみて、自分も早く成長するにはその失敗の数をなるべく減らすように心がけた。

そして、そのためには、屋根の下でおいて、つまり帰宅後にメモをとったり、結びを練習したりすることが大切だと思われたのだ。

屋根の上ではすべてが本番である。そのためには、屋根の下でいかに準備をしておくかが肝要だ。

総じて、「失敗は一度まで」と心がけるしかないと思ったのである。

職人のヘルメット
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職人が綴ったコラム

かつて山城萱葺で働いていた職人が、茅葺きの難しさとおもしろさ、現場での苦悩や発見をコラムとして綴ってくれました。なかなか言葉で語られることのない茅葺きの世界。ご興味のある方は、のぞいていただければと思います。

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