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エッセイ5「土から屋根に、屋根にから土に」12

じつは明治期に比べ、日本の森林および田畑の面積はほとんど変わっていない。

劇的に減少したのは草地の面積であると言う。

国土の11%からわずか1%に減少してしまった(8)。

日本の近代化は、どうやら草地の減少、つまり草の利用が生活から衰退したことと同義であると言えそうだ。

草地として意味が与えられていた土地は、全国各地に存在し生活を支えていた。

しかし、近代生活において草の利用が減少するにつれ、草地はその意味を失っていく。

それにつれて人間と草地との心理的な距離もどんどん広がっていく。

毎年刈り取られ、火入れされ維持されてきた草地は、低木類すら生えていない。

そのため、宅地への転用、大型レジャー施設への転用が容易で、あっという間に草地は消えていった。

実際、全国の名だたるスキー場は元来草地であったものが多いという。

 

だがしかし、映画や広告にたびたび登場する草原や原っぱの描写は、なぜ人々の心を揺さぶるのであろう。

単なるノスタルジーの喚起だけではない、もっとも深い根に差したようなものであるに違いない。

事実、ヨシ場にはじめて降り立ったときの、あのなんともいえぬ感動は、もはや私がそれまで生きてきた二十数年の記憶にあるものではない。

もっと、人間としての誰もがもつ根源的な喜びに満ちた光景であり、ただ美しいと感じるのである。

原っぱや野原は、わたしたちの心にいつも美しい光景として記憶されている。

世代や性別を越えてこの美しさは共有されるものらしい。

取り戻せない郷愁なのか?

取り返しのつかない過去なのか?

暖かい春風にゆれる野花、初夏の鮮やかな蛍光色に輝く台地の草原、真夏の青空に映える旺盛な濃い緑の畦、秋の広大な銀のススキ野。

遺伝子などとっくに越えて美しいと感じる光景はどうやら豊かな草地と関係があるようだ。

実際に、近年の調査によれば、日本人の美しいと感じる風景が草原、木々のまばらな林の順位であり、その理由は、これらの風景が「安らぎ感」

「雰囲気の明るさ」「開放感」を与えるからだと言う。(9)

 

(8) 「カヤネズミから見る人と自然の関係」乾紗英子 京都精華大学 2006 P26参照

(9)  「風土の日本」オギュスタン・ベルク p118参照

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かつて山城萱葺で働いていた職人が、茅葺きの難しさとおもしろさ、現場での苦悩や発見をコラムとして綴ってくれました。なかなか言葉で語られることのない茅葺きの世界。ご興味のある方は、のぞいていただければと思います。

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