エッセイ5「土から屋根に、屋根にから土に」6
ヨシ原を進んでいくと山田親方のお父さん(敬称「おやっさん」)が、トラクターに、地面スレスレを刈る大型刃を取付けて、次々と4mもあるヨシを一定方向に倒している。
わたしの仕事は、その刈り倒されたヨシを集めて、胴回り2尺(60cm)のヨシの束を括ることであった。
これがとても難しい。
4mもあるヨシをかき集めて根元をそろえるのである。
一抱えのヨシをトントンと地面に打つと、強風にヨシがなびいてこちらが倒れそうになる。
また胴回り2尺の束を作るには相当のヨシを集めてこなくてはならない。
どのくらいのヨシを集めたら2尺の束ができるのか、効率的に仕事ができるように意識してみるものの、ヨシの束をみると太さがまちまちである。
なんとかヨシの束ができると、今度は円錐の形になるようにヨシを立てかけて寒風に一週間以上あてる。
そして2tロングのトラックで搬出し倉庫に保管する。
だがしかし、ふと隣をみると先にできたヨシの山をみるとなんとも束の太さがそろった奇麗な山があるではないか。
「おやっさん」のヨシ刈りを若いときからサポートしていた「おばちゃんら」(敬称は「おねえさんがた」)がヨシ刈りしたものである。
ヨシ刈り何十年の大ベテランである。
共に仕事をさせてもらうと歴然の差である。
「おばちゃんら」は3人チームを編成して、ヨシを機械で刈り倒す人、ヨシを集める人、ヨシをビニール紐で括る人に分かれる。
それぞれが無駄のない動きで、ものすごい数のヨシの束をつくっていく。
男性一人で一日に40束〜50束作れたら良いとされるなかで、3人で一日に180束から200束も作り上げてしまう。
よく見ると機械の進む方向、ヨシの倒す位置、ヨシを集める人の場所、括る人のビニール紐の位置まで計算されている。
わたしは、「おばちゃんら」の仕事をみて、マムシのナイフさばきをみたときと同じような気持ちを抱いた。
現代社会の片隅で、ヨシ刈りという仕事が細々と残っていること。
そして、そのヨシ刈りが本当に隅々まで、思考の余地がないほどに身体化され、洗練された「おばちゃんら」の動き。
20世紀の生産と物流を象徴するような国道一号線のすぐ傍らで、細々と近代化する以前の風景がそのまま真空パックされたように感じた。