エッセイ3「別嬪さん12」
「屋根の断面図と平面図を書いているか?」
断面図と平面図?茅葺き屋根を縦に切ったときの図と、屋根を横に切ったときの図である。
そしてその中身の茅が3尺と6尺という長さでどのように働き、竹がどの位置でどのように働き、下地とどの角度で結びついているのか。
それを「書いているのか?」というのである。
『茅には「最もしなるポイント」というのがあるんだ』(山田親方)
私が「茅のしなり」に気づくにはそれからまだ一年ほどたって2007年5月、はじめてカドをつけてからのことであった。
現場は京都府宇治田原町の永谷宗円の生家跡である。
山の中にひっそりと佇む茅葺き屋根は、初めて煎茶いわゆる緑茶を生み出した永谷宗円翁の生家である。
この「しなり」というのは、茅が歴史的変遷のなかで取捨選択され、ススキやヨシに落ち着いていった最大要因だと気づくようになった。
逆に言えば「しなる草」が「茅」という屋根葺き材の特徴であるともいえる。
そして、そのしなりには、近代建築が直線と直線の交叉でできるという合理性と効率性に基づく建築に展開していったのに対して、茅葺き屋根は「しなり」という
およそ図面に起こせない計算外の動きを、勘によって計算して屋根にするという技術に気づいていくことになるのだ。
そしてそのことには、建築学の知識がない私にとって断面図を書くことが肝であり、そのことが次への突破口になったのだ。