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エッセイ2「仕事を盗む6」

こうして「帝国」と「マルチチュード」(ネグリ&ハート)(4)への道が開けてくる。

揺れては消え、また浮かびあがる素粒子、地球の影の立役者バクテリアたち、砂漠の無数の瓦礫の下で息をひそめるサソリたち、海原を駆け巡るイワシの群れ、

草原を疾走するサラブレット、多種多様な世界の全体を「リゾーム」としてドゥルーズは「ミル・プラトー」で描き出した。

そしてネグリが、その多様性をとくに人間にスポットをあて、生政治的にとらえた重要な概念が「帝国」である。

「帝国」とは、いかなる具体的な国家を名指すものではない。

もはや、国家という境界すらもたず、地球上にどこまでも広がっていく空間的な全体であり、経済的、政治的、文化的なものが互いに重なり合って、

モノと情報の大量生産を可能にする技術を軸に、歴史の外部ないしは終わりに位置しながら、多様な状況を恒久的に固定化し、秩序付け支配する体制である。

実際、アメリカは「帝国」によくなぞらえるが、「帝国」とは具体的な国家でもはない。

ネット化したハイパースピード現代社会において、ヒト、モノ、情報の劇的移動に伴い、グローバリゼーションが進み、すでに国家という具体的な線を越境し、

逸脱しすぎているので、もはやそれまでのように、国民国家という枠組み内で、政治的主体として人間を語り、理解し、把握することができなくなっているのだ。

そこで、いかなる国家や文化、歴史を意味することのない普遍的なグローバリゼーション、近代化運動として「帝国」という概念が必要になってきたのだ。

創造力のほとばしる「襞」がアメーバのように世界を照らすのであれば、「帝国」はアメーバのように、あらゆるローカルな文化を粉砕しながら普遍化をめざしていく。

わたしたちは国道沿いに立ち並ぶチェーン産業のレストランや洋服店が、地方や地域の歴史や文化を無視して全国的に同じような景観をみるとき、「帝国」を感じないだろうか。

大気汚染やゴミの問題など、モノと情報の大量生産の裏側に起こる問題をみつめるとき、「帝国」を感じはしないだろうか?

そして、移民が増加し、ますます国家や地域などが希薄になっていくとき、「帝国」を感じないだろうか?

そう、私たちは意識するとしないとに関わらず、日本という政治的主体であることに加えて、「帝国」とい水平方向に働く力の政治的主体であるとも認識せねばならないだろう。

 

創造することで、歴史的主体であると認識した私たちは、いっぽうで同時にその社会で生き抜く覚悟をもつことでもあった。

それは、その社会の政治を、経済を受容することでもあった。

一方で、私たちは現在という政治に絡まれて生きている。

現在という政治から逃れて生きることはできない。

山の中に隠れ、里の中に潜み、畑を耕し、楽器を奏で、歌を歌っても、それでもなお私たちは政治的に意義づけられている。

必ずや「帝国」はアメーバ状に広がりわたしたちを襲うだろう。

 

「政治は、あなたを手放しはしない。わたしたちは、新聞も読まないことができる。テレビが政治絡みの話題になったら、素早くチャンネルをかえることもできる。

投票だっていかないこともできる。選挙ポスターから目を逸らして歩み去ってもいい。首相の名前も知らないで暮らしていくことも可能であろう。

だが、それでもあなたは、政治から逃れられはしない。—中略— 人が他者と出会ったとたんに、政治ははじまるといってもいい。」(5)

 

(4) マルクス主義的に社会を構造としてとらえた単線的な時間軸の歴史認識を、批判的に展開し、フランス現代哲学を中心に、それまでの歴史認識を脱構築し、

「リゾーム」「襞」といった動態的な歴史認識が誕生した。

だがしかし、冷戦が終結した後、ネグリ&ハート「帝国」の出現によって、いわゆる西側が産んだ政治経済的体制は、世界をくまなく覆い尽くし、

すべての「異民族」「異文化」を体内に吸収し、どんなに彼らが抵抗しようともすべて「内紛」で片付けられ、一切の外部をもたなくなり、

突き抜けていくという超国家的システムを描いた。

もうそこには批判も憤慨も、そして悲観もない。マルチチュードとともに「帝国」を突き抜けろ!というのだ。

(5) 福田和也 前喝書 p32—p33

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