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エッセイ5「土から屋根に、屋根にから土に」9

なにも人の手が入らない「手つかずの自然」が豊かなのではない。

人間がススキを刈り、ヨシを刈り取ることで、伐採という聞こえの悪さとは裏腹に、生物多様性に寄与し、豊かな自然が生まれるというサイクルに、私は感動すら覚えた。

いままで茅葺き屋根の技術的側面をみていたのだが、茅という材料の系譜をたどることで、茅葺き屋根をより大きなサイクルの中で位置づけられるようになった。

それとともに、シェコの村で歌を聴いたときのように、実は茅葺き屋根も、「土から生まれている」のだと思うようになってきた。

土から生まれたヨシやススキを刈るということは、実際に「つちからやねに」というサイクルに身を置くことであった。

 

そして、そのサイクルの中で、圧巻だったのはヨシ刈りが終わった3月、すっかり見通しがよくなったヨシ原を一気に焼くという野焼きの光景であった。

12月から枯れ落ちたヨシの葉が堆積し、地面はすっかり黄色くなっている。

ヨシの葉を少しかき集めて火入れを行うと火柱3m〜4mほどに立ち上った。

猛る豪火にすっかり興奮し、踊っていたわたしは、火入れの営みが、長期的にみると生物多様性に貢献しているという事実を知って我にかえった。

なぜ刈り取ったヨシ原に火を放つのであろう。

 

火入れの後、灰が土壌にミネラル分を補給し、熱による蒸発で土を柔らかくすることで、ヨシの成長促進効果がある。

また、腐りにくいイネ科植物の立ち枯れや、枯れ葉の堆積物を燃やして除去する。

そうすることで地表に陽光が射し込みやすくすることで、春の萌芽を促進する作用がある。(5)

 

(5)「ヨシの文化史」西川嘉廣 淡海文庫 p31参照

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かつて山城萱葺で働いていた職人が、茅葺きの難しさとおもしろさ、現場での苦悩や発見をコラムとして綴ってくれました。なかなか言葉で語られることのない茅葺きの世界。ご興味のある方は、のぞいていただければと思います。

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