エッセイ5「土から屋根に、屋根にから土に」8

わたしはそれまで、自然とは保護されるべき対象であり、人為の認められた自然は、ただちに汚染され、本来のすがたに戻るためには、

「手つかずの自然」でなくてはならない、と考えていた。

塩澤さんの教示には、わたしの考えを改めるだけでなく、近代のプログラムが破綻しつつある昨今、自然を利用してきた人間の両者の関係を問い直し、

未来に光を当てるヒントがあるのではないかと考えられるのである。

 

ススキだけではない。

実はヨシも同様に、刈ることで生物多様性に寄与することがわかってきた。

水辺に生育するヨシは成長の際に、水中の窒素やリンを吸収して栄養分とする。

さらに空気中の二酸化炭素も吸収しながら春の芽吹きから夏まで一気に3m〜4mに成長する。

このリンや窒素は水質汚染の元になる物質であり、刈り取らずに放置されたヨシ原では、立ち枯れしたヨシが腐り、水は淀み、悪臭を放つ。

さらに成長の際には、ヨシの根の部分には微生物が生息し、同じく巣質汚染の元になる有機物を活発に分解してくれる。

この微生物を求めて、筋エビ、メダカ、ヨシノボリが入ってきて、微生物を食べることでさらに水質を奇麗にしてくれる。

さらに、これらを餌とする魚類が増え、生物が多様になっていく。

このヨシの水質浄化機能は、冬期のヨシ刈りを経て、春の芽吹きとともに効果を発揮する初夏に一気に成長するヨシ原は、日射も遮られ水草が繁茂することもない。

そのため、魚類の産卵場として最適であり、野鳥にとっても絶好の退避場や営巣地になっている。

ヨシ刈りを施したヨシ原には、実に70種類以上の動物が共存しているという。(3)

 

逆に、ヨシ原を放置して、皮肉にも悪臭や水質汚染を招いた例がある。

1980年以降、東京都多摩川では、河川管理計画にもとづき、河口の広大なヨシ原に対して、人為的的な影響を極力排した「生態系保持空間」を設定した。

以来30年間放置されたヨシ原は、立ち枯れを重ね、動植物は減少し、ハリエンジュなどの外来種の侵略をうけて、悪臭や水質汚染の結果につながってしまった。

そして、2004年には河川管理の方針を見直す必要性が示されていたのである。(4)

 

(3)  鵜殿ヨシ原研究所 小山弘道所長 産經新聞 2005.8.2「かつての豊かなヨシ原の復活を」参照

(4) (財)河川環境管理財団 「多摩川における生態系保持空間の管理保全方策について」参照